或る撮影の帰り道
簡単な機材を背負って自転車を走らせていた
目的地はまだ遠い
頼りのないライトは
仕事を終えた水商売の女のように
走って行く先々を無機的に照らした
何台もの無神経な車が僕を追い抜いていく
そのスピードの差がまるで周りの人と自分自身の
人生の差なんだと言われているような気がした
線路はとても静か
終電車はとうの昔に行ってしまった
ドーナツショップのウェイトレスが
眠たげな瞳をこすっていた
橋の上で
哀しげなストーリーが流れている川を見たとき
昨日の君との少しだけ物憂い会話を思い出した
不安定なスピードで街は流れていく
目に映る全てのものが僕を呼んでいるような気がしたが
手にしたカメラのシャッターを切ることはなかった
部屋について
毛布にくるまった僕は
へばりついた疲労が薄れゆくのを感じながら
無意識のうちに刻み込まれた
このフィルムを
現像することなく
忘れてしまうだろう