俊哉が地元の高校を出て今の工場に勤め始めてからもう五年になる。
大きなプレス機の前で一日中何千枚という鉄板を打ち抜いている。
そんな単調な仕事を今まで続けてこれたのは機械相手の仕事だったからだろう。
客商売なら半年ももたなかったに違いない。
学生時代にやったファーストフードやコンビニのアルバイトでさえ三ヶ月と続かなかったのである。
特別人間嫌いという訳ではなかったが、
あの偽善に満ちた笑顔というものを俊哉はどうしても作ることが出来なかった。
納得出来ない事もあったし、バイト仲間との会話も煩わしく感じていた。
その点、機械相手の仕事なら下手な作り笑いをしなくて済むし、裏切られる事も滅多にない。
もしあるとすれば、それは単に整備不良だったり、金型をセットし損ねたした時ぐらいのもので、
その事に多少いらつく事はあっても理不尽を覚える事はない。
それに同僚、といっても殆どが五十を過ぎた親爺達ばかりで、俊哉と同年代の子は一人もいなかった。
俊哉は彼らを親しみを込めて、皆同じように「オッチャン」と呼んだ。
「オッチャン」達は俊哉を「俊坊」と呼び、自分の息子の様に可愛がってくれた。
面白い事に俊哉が誰に対しても「オッチャン」と呼ぶのに
「オッチャン」達は誰が呼ばれているのか何故か解っているのである。
客にぺこぺこ頭を下げる仕事なんてまっぴらだと思っている俊哉にとって此処は天国ではないにしろ、
少なくとも凌ぎ易い場所ではあった。