どれくらい眠っていたんだろう・・・。
まだ体が鉛の様に重い・・・。
それにしても昨日は最悪だった・・・。
スケジュール狂っちまったな・・・。
オッチャン、一体どうしたんだろうな・・・。
らしくねえや・・・。

遠い意識の中で俊哉がぼんやりと考えていたとき、不意に携帯が鳴った。郁美からだった。
「オウ。」
自分でも無愛想な返事だなと思いつつ答えるが郁美の反応がない。
こんな時の郁美は明らかに怒っているのだが、俊哉にはその理由が皆目見当がつかなかった。
「俊ちゃん、今日はあたしとプールに行くって言ってたよね。夕べも電話してくれるって言ってたよね。」

郁美にそこまで言われてから俊哉は、そういえば先週会った時にそんな話をしていたのを思い出した。
郁美がやっと車の免許を取ったので、俊哉の車で何処かに行こうと言う事になっていたのである。
普段俊哉はまめに郁美に連絡しているのだが、今週に限っては事情が違った。
短納期の仕事が急に飛び込んできて、普段は殆どしない残業を余儀なくされたのである。
この不景気にありがたいと社長は喜んだが、俊哉は顔をしかめた。
そして、昨日。
「オッチャン」の一人が俊哉の仕上げた製品をリフトで運ぶ際に荷崩れを起こしてしまい、
丸二日間かかったその仕事を俊哉は一からやり直さなければならなくなったのである。
怪我人が出なかったのがせめてもの救いだったが、俊哉は休日出勤を覚悟しなければならなかった。

「悪い、実は行けなくなっちまったんだ。」

電話の向こう側でふくれっ面になっているであろう郁美に俊哉は手短にこの一週間の出来事を説明した。そしてこれから出勤なんだと言いかけた時、それまで黙っていた郁美が口を開いた。
「解った。もういい。でも次は必ずだよ。水着だって新しいの買ってたんだからね。とにかく今夜連絡して。」
一気にそうまくし立てた郁美は、さらに追い打ちをかけるように言って電話を切った。
「ウソツキ。」
郁美が怒るのも解るが俊哉にしたって好きでそうした訳じゃない。
「チェッ。」
舌打ちしてみても、なんだか仕事を言い訳にしたみたいで嫌な気分になった。
時計を見る。時間がない。汚れたままの作業着を掴んで俊哉は部屋を出た。

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