俊哉が出勤すると、いつも使っているプレス機の上に缶コーヒーが置いてあった。
それは自分の失敗で休日出勤を余儀なくされた俊哉へのオッチャンの心遣いであることはすぐに解った。
「そんなに気を使うことねえのにな。」
通りかかった事務員に「オッチャンは?」と聞くと、「もう上で仕事しているわよ。」と教えてくれた。
俊哉が二階に上がると、オッチャンはバリバリと音を立てながら溶接をしていた。
声をかけると「オウ。」とだけ短い返事が返ってきた。
実は俊哉はこのオッチャンをとても尊敬していて、
「俺も早くオッチャンみたいになりてえ。」と思っている。
オッチャンは足が悪い。いつも大儀そうに足を引きずって歩いているのだが、仕事はとても速いのだ。
「要は段取りだ。仕事の九割は段取りで決まるもんだ。」は、オッチャンの口癖だ。
他のオッチャン達も「父さんにはついていけねえや。」という。
オッチャンは俊哉以外の仲間達からは「父さん」と呼ばれていて、
訳を聞くと、その昔、仲間内でオッチャンに一番早く子供が出来たからだそうだ。
俊哉は持ち場に戻り、今日一日の段取りに取りかかった。
「今日も長い一日になりそうだ。」
暫くして、静かな工場団地の朝に俊哉の鉄板を打ち抜く音が響き始めた。