時計の針が後もう少しで11時になろうとしていた。
客は俊哉達だけになってしまい、店の親爺は今日の上がりを計算している。
郁美が小さな欠伸をした。俊哉はオッチャンを見た。
オッチャンはビールのコップを握ったまま俯いている。
その皺だらけの手を見て、ただ仕事の苦労だけで出来た訳じゃないんだな、と俊哉は思う。
誰が言い出したわけではないが、自然とお開きになった。
俊哉はなんだか郁美と話したくなってもう少し店に残っていることにした。
オッチャンが帰りがけに俊哉の肩をぽんとたたいて出ていった。

「オッチャンの手は家族を守るために傷ついてきたんだ。」
ふと、俊哉は自分の手を見てみる。
「俺は今まで誰かに守られてばっかりだったんじゃないかな。これからは誰かを守っていくことが出来るのだろうか。」
俊哉がそんなことを考えていたとき、郁美はカウンターに突っ伏して静かな寝息を立てていた。

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