ようやく病院に着いた。
駐車場に乱暴に車を押し込み、総合受付で親父の居場所を確認する。
「救急センターの3番窓口に言って下さい。」
ソファーに母親が座って待っていた。
冷静さを取り戻していたのだろう、もう泣いてはいなかった。

彼女は親父が倒れた経緯を説明する。
思い出したくもない光景を伝えなければならない、その辛さを俺は忘れてはいけないと思った。
何のため、という訳でもないけど。

「処置室にお入りください」というアナウンスが流れた。
医師の説明を受けなければならない。
部屋に入ると担当医が撮ったばかりのレントゲンを前で眉間にしわを寄せて座っていた。
「まず、緊急に手術を行う必要があります。」
彼は説明の前にいきなりそう言った。
俺と年齢はあまり変わらなさそうな、小太りの男だ。
彼は紙に内臓の位置を示す絵を描きはじめ、
食道から肛門に至るまでの消化器官系の解説まで喋った。
「わざわざ説明してくれなくても、そんなことは誰だって知っていることじゃないか」

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