久し振りに電話で喋った“君”の声は、少し疲れているのだろう。それでも僕はまた、“君”の言葉に救われた。僕も疲れているのかもしれない。遠くに離れた“君”を想い乍ら、一日の始まりと一日の終わりを強引にすり替えて眠る。
“君”が「貴方ノ誕生日、プレゼント何ガ欲シィ?」と聞いてきた。珍しい事もあるものだ。僕は「欲しい物は皆、高価過ぎて“君”に買って貰う訳にはいかない。」と答えた「ソレナラ、言ウダケ言ッテミテ。」と言うので「1つだけ?」と尋ねると、「幾ラデモドウゾ。」と“君”は肩をすくめる。ギター、カメラ、バイク、マッキントッシュのパソコン・・・僕は調子に乗って、欲しい物をどんどん挙げていった。「あれも欲しい、これも欲しい。」まるで子供だ。これじやあ“君”より始末が悪い。“君”は終いに呆れ果て、「全部手二入レテモ、最期マデ持ッテ行ケナイデショ?」と言う。「あ、そうなんだ。」本当に最期の最期まで持って行けるのは自分の魂だけなんだ。僕は本当に子供だった。「もう何もいらないから、僕が死ぬまで傍にいてくれる?」と恐る恣る尋ねると、“君”はニッコリ笑って小さなキスをくれた。
僕等は似合いのカップルという訳じや無かった。当人同士ちやんと付き合ってるという自覚さえ無かったし“君”には彼氏がいた。ただ何となくいつの問にか出来てしまった心の隙間を、互いに埋め合っていただけだ。けれども、僕が出張で1ケ月程この街を離れたのをきっかけに“君”ともあまり逢わなくなっていった。日々何らかの危機感を感じ乍ら生きていても、その日その日の疲労を紛らわす事で精一杯。“君”の為に何かしてあげようとする気手寺ちさえどこか遠のいてしまう。あの頃より笑わなくなった“君”もまた疲れているのだろう。変わり映えのしないFMのランキングが神経を逆なでする。