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俺が高校に入って暫くした頃、家族が一時的に離散した。
親父も再婚した新しい母親も俺もそれぞれが生活の場を探さなければならなかった。
俺は4畳半に流しのついたボロアパートの一室で一人暮らしを始める事になった。
朝は新聞を配り、夜は場末のピアノラウンジで厨房に入っていた。
昼間は睡眠と銭湯と夜の仕込みの為の買い出しで終わる。
そして思い出した様に学校に行く。
店にはママと支配人、バーテンと二人のホステス、そしてオニーチャンと呼ばれる若い料理人がいた。
俺はそのオニーチャンに料理のイロハみたいなものを教わった。
ガーリックピラフ、ポテトサラダ、牛肉のたたき、手作り餃子…
他にもいろいろ教わったはずだけど、今はそれぐらいしか思い出せない。
いつも空腹状態だった俺は「味見」と称してよくつまみ食いしてた。
みんな優しくて何も言わなかった。
未成年者は22時以降働いちゃいけないんだけど
そんなこと構っちゃいられなかった。
15時から市場へ買い出し、17時から19時まで仕込み、2時まで営業。
3時から仮眠を取って4時過ぎに朝刊配達に行く繰り返し。
今、仕事とラーメン屋を掛け持ちできているのは
そんな暮らしがあったからだと思う。
そして当時そんな暮らしができたのは
若い上に仕事が無かったからだと思う。
学校なんてどうでもよかった。
当時つきあっていた彼女は、っていうか彼女の家族には本当によくしてもらった。
彼女はクラスメートだったが特に意識した事はなかった。
っていうか殆ど出席していなかったので知らない人と同じだった。
だが、俺が休んでいる間に席替えがあって
窓際の一番後ろに彼女が座り、その前に俺の席が移った。
たまにしか出てこない俺を不思議に思ったのか
久しぶりに行くと彼女の方から話しかけてきた。
寂しかった俺はすぐに彼女と恋に落ちた。
学校なんてどうでもよかったはずの俺が週に4日も出席する様になり
店には学校に行くから夜から出勤させてもらってそれまでの時間はずっと一緒にいた。
店が休みの時には彼女の家に泊まりに行った。
彼女のお母さんは朗らかな人で食事を作ってくれただけでなく洗濯もしてくれた。
一度パンツをはぎ取られそうになったことがある。
小学生の妹もいて、よくなついた。
親父さんは無口な人で、でも優しい目で俺と彼女を見守ってくれていた。
学生らしくしなさい、勉強しなさい、不純異性交遊してはいけませんなんて一言も言われなかった。