ええ話
2008-08-01大好きだった女の子と結ばれて願いを叶えた翌朝に命尽きた8歳の少年
新郎が式の翌日に亡くなった。式の翌日なのにハネムーン先ではなく、英国ダービー州マックワースの実家で亡くなった。彼はその日の朝、いつもそうするように自力でベッドから起き出して来た。だが、彼の体力は既に限界に達していたようだ。
新郎の母ロレイン・フレミングさん(28歳)は、息子のリース君が念願の結婚式を挙げた直後にささやいた言葉を忘れることができない。――“I can go now”(「もう逝ってもいいかな」)
母が28歳なのだから、息子(新郎)の若さが窺い知れるだろう。わずか8年の短い生涯だった。2004年の7月に体調を崩して病院で受診すると、白血病と診断された。そのときリース君は、まだ4歳だった。
以来、4年間にわたってリース君は病気と闘い続けてきた。しかし病状は悪化する一方で好転の兆しはなかった。そして、先日、担当の医師がリース君自身に告げた。「君に残された時間は、もう数週間しかない」
リース君の母ロレインさんはリース君の実の父と別れ、今はミック・トンプソンさんという男性と夫婦同然の暮らしをしている。リース君の命が残り数週間しかないことを知ったロレインさんとミックさんは、彼が望むことをできるだけ叶えてあげようと決心した。
リース君には、とても仲の良いガールフレンドがいた。エレナ・パーグスロブちゃんという同級生の女の子である。小学校に上がってから2年ほど仲良く過ごしてきた。リース君が入院しているときには見舞いに来てくれた。なのに、しばらく前に仲違いをしてしまった。
ロレインさんは、リース君がエレナちゃんのことを今でも大好きで、仲直りしたがっていることを知っていた。だから、二人を仲直りさせるためにパーティを開いて、エレナちゃんを招待することにした。仲直りしたがっていたのは、エレナちゃんも同じだった。
幼いカップルは、両家の家族に囲まれて、サッカーゲームやレーザーポインタ遊びなどで楽しい時間を過ごした。リース君は、エレナちゃんと仲直りするだけで終わらせるつもりはなかった。
もしリース君が健康なら、これから無限の広がりを見せる未来へ向け、エレナちゃんと手に手を取り合って歩んでいくはずだった。だから、大きくなったら結婚するんだという夢を持ち続けることもできただろう。
パーティの最中、エレナちゃんと仲良く寄り添ってゲームを楽しんでいたリース君が意を決して、彼女の手を握り締める。皆が二人を見守る中、「僕と結婚してくれ」という彼の言葉にこっくりと頷くエレナちゃんの姿があった。
両家の大人たちは、次に何をすればよいかをもうわかっていた。さっそく彼らは、幼いカップルに結婚式を挙げさせてやるための準備に取り掛かった。
そして、7月4日の金曜日に本物そっくりの結婚式が執り行われた。牧師役の大人が二人に愛の誓いを交わさせた。二人は、ちゃんと指輪も交換した。結婚証明書も渡された。
だが、もちろん二人はハネムーンに旅立つことなく、それぞれの家族が待つ家へ帰った。そして冒頭に記したように、自宅に帰ったリース君は、願いが叶って思い残すことはないかのように「もう逝ってもいいかな」と囁いたのだった。
翌7月5日(土曜日)の朝、リース君はいつもそうするように自力でベッドから起きてソファまで歩いたのだが、まもなく容態が急変し、両親とがん患者ケア専門の出張ナースが見守る中、静かに息を引き取った。わずか8年の短い生涯だった。しかも、その半分の4年間は白血病との闘病に明け暮れた。合掌。
リース君の葬儀では、参列者たちが葬儀用の馬車の後ろを徒歩で進んだ。“徒歩”には理由があった。愛しい息子を亡くしたロレインさんは、こう語っている。
「リースは、いつも歩けなくなるまで歩こうとしていました。私たちのために頑張って歩いて見せてくれていたのです。だから、今度は私たちが彼のために歩く番だと思ったのです」