気づいた時には冴子が耳元で何か騒いでいた。

宏明はまだ覚醒していない頭で状況を判断しようとしていた。
仕事から帰ってシャワーを浴び、簡単な食事を済ませるのが精一杯だったのか、習慣になっているメールのチェックもしないまま眠っていたのだ。

疲れてるな…

まだ月曜の夜だというのに、先週の疲れを消化できないまま、また新しい荷物を背負い込んでいる。
それは何も今に始まった事ではなくもうずっと長い間その繰り返しで、宏明自身、この疲れが一体何による疲れかがわからなくなっていた。
編集者という仕事の性質上、24時間携帯電話を受け取れる態勢でいなければならない事も大きな要因かもしれない。
以前は携帯が鳴ればたとえ何時であってもすぐに出られたものだったが、疲れなのか年齢なのか、それが出来なくなってきつつある。
実際、携帯をダイニングテーブルに置きっ放しにしたままベッドで寝てしまい、緊急の連絡を受け取れなかった事があり、
それからは携帯を必ず枕元に置き、更にイヤホンをつけて眠るようにしているのだ。

いつから喋っていたのだろう…

おそらく深い眠りにはいる前に冴子の声に気づいたのだろう。
無意識に生返事を繰り返していたのかもしれない。
冴子は怒っているのだろう。先刻までブーブー言っていたのに、今は押し黙っている。
携帯の向こうで鼻を啜る音が聞こえる。
しかし正直なところ、宏明にはその理由が全くわからなかった。
ただ「ちゃんと話を聞いてなくて、ごめん」そう言うしかなかった。

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