clips

2007-10-27

何かを得たら何かを失ってしまうのか
何かを失わなければ何かを得られないのか
しかし答えなど無い
ただどちらにせよ
君が羽ばたける事の喜びを
噛み締めればいい

Maria before the daybreak

2007-10-22

女が仕事を終え部屋に戻ってきた。
無言のまま浴室に入りシャワーを浴びる。

街はようやく目覚めようとしていた。
昨日の夜から降り出した雨音と
シャワーの流れ落ちる音だけが部屋を包んでいる。

男もまた無言のまま、その音をじっと聞いている。
女の為に作っていた料理をどのタイミングで温め直せばいいかをぼんやり考えていた。
おそらく女は濡れた身体を拭かないままバスローブにくるまり
冷蔵庫のヴォルビックを一口か二口飲んで
ダイニングテーブルに突っ伏して男の料理を待つのだろう。

その間、男と女の間に会話は無い。
女は女でその日の出来事を話す程おめでたい人間ではないし、
男も男で煙草を買いに行く以外何もしていないから話す話なんて持ち合わせていなかった。
もうずっと長い間二人の間に会話はなかったが
それで揉めたとか愛想が尽きた、という事では決して無かった。

男が女の部屋に転がり込んで既に半年が過ぎていた。
男は女が働いている店に泥酔して入ってきた。
勿論すぐに店の強面がたたき出したのだが、
女が仕事を終えて店を出たとき、まだその場所でくたばっていたのを
女が連れ帰ったのが始まりだった。

男は自分を「セン」といい、それまでの過去を一切口にしなかった。
だから女も自分の本名は言わず「マリア」と今の店で使っている名前を言った。
センは無口だがマリアが最も苦手とする家事を淡々とこなした。
料理の腕も悪くない。
何より、自分の事をあまり干渉してこないのが心地よかった。
センは一般的に言うと主夫とかヒモとか言われそうなものだが
マリアはそんなことを考えた事も無かったし、セン自身も気にもとめていないようだった。

女がバスルームから出てきた。
長い時間をかけて洗い流したものは疲れだけではないのだろう。
短いため息をついたあと、冷蔵庫の扉を開け、ヴォルビックのボトルを取り出す。
冷気が火照った彼女の頬に当たる。
男は既に小さなキッチンに立っていて
昨日作った野菜のコンソメスープを温め直している。
今は外の雨とガスコンロの火の音と鍋の音しかしていない。

不意に女がダイニングテーブルに突っ伏しながら「ねぇ、」と言った。
男は黙ったままで女の方に視線すら向けなかった。

「ねぇ…」もう一度女が言う。

「食事が済んだら出かけない?」

男は暫くの間黙っていたが、スープをよそいながら
「今日も一日雨だけど…」少し口ごもってつぶやく。

「大丈夫だよ。傘ならあるんだし。」

女は身体を少し反らして
玄関の扉に立てかけた、まだ濡れたままの傘を見て少しだけ笑った。

maria(ナナコさん)の作品「Maria」にインスピレーションを受け、続編を勝手に書きました。
http://blogs.yahoo.co.jp/violet_maria_maddalena/23518395.html

無題

2007-10-09

独りでいたら寂しいから
誰かといても余計に増幅してしまう。

昔から呑みに行ってはしゃいでも
心から楽しめた事なんてそんなにあった訳じゃない。
ただ少し相手してくれる奴がいたから合わせてた。

そんなこと言うぐらいなら冷たいシーツだろうとくるまっていればいいのに。
暫くすれば温かくなるんだし。

早く君が隣にいることが自然になればいいのに…

無題

2007-10-04

ブレーカーを落とすように
何もかも断切りたいという思いと
たとえどんな形であってもいいから
繋がっていたいという思いの交錯

マグカップの底に沈んだのは何?

明日を今日のように生きてはいけないと
誰かの歌を口にしても体は少しも動かない

過積載の長距離トラックが撥ねる雨の飛沫に
零れ落ちた夢の破片

tomorrow

2007-09-27

夜明けの来ない日はない、と誰かが言った
明日は明るい日と書くんだ、と誰かが言った
今日駄目でも明日があるじゃないか、と誰かが言った
明日は明日の風が吹く、と誰かが言った

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

いつまで俺を騙せば気が済むんだ
夢をちらつかせたって無駄だよ
生憎そんなものに興味は無いんだ

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

そんなのみんな嘘っぱちじゃないか

明日目覚めなかったらどうしようという恐怖よりも
明日目覚めなくてもいいという安堵を

chronicle 1982-1985

2007-09-21

1

俺が高校に入って暫くした頃、家族が一時的に離散した。
親父も再婚した新しい母親も俺もそれぞれが生活の場を探さなければならなかった。
俺は4畳半に流しのついたボロアパートの一室で一人暮らしを始める事になった。

朝は新聞を配り、夜は場末のピアノラウンジで厨房に入っていた。
昼間は睡眠と銭湯と夜の仕込みの為の買い出しで終わる。
そして思い出した様に学校に行く。

店にはママと支配人、バーテンと二人のホステス、そしてオニーチャンと呼ばれる若い料理人がいた。
俺はそのオニーチャンに料理のイロハみたいなものを教わった。
ガーリックピラフ、ポテトサラダ、牛肉のたたき、手作り餃子…
他にもいろいろ教わったはずだけど、今はそれぐらいしか思い出せない。
いつも空腹状態だった俺は「味見」と称してよくつまみ食いしてた。
みんな優しくて何も言わなかった。

未成年者は22時以降働いちゃいけないんだけど
そんなこと構っちゃいられなかった。
15時から市場へ買い出し、17時から19時まで仕込み、2時まで営業。
3時から仮眠を取って4時過ぎに朝刊配達に行く繰り返し。

今、仕事とラーメン屋を掛け持ちできているのは
そんな暮らしがあったからだと思う。
そして当時そんな暮らしができたのは
若い上に仕事が無かったからだと思う。
学校なんてどうでもよかった。

当時つきあっていた彼女は、っていうか彼女の家族には本当によくしてもらった。
彼女はクラスメートだったが特に意識した事はなかった。
っていうか殆ど出席していなかったので知らない人と同じだった。
だが、俺が休んでいる間に席替えがあって
窓際の一番後ろに彼女が座り、その前に俺の席が移った。
たまにしか出てこない俺を不思議に思ったのか
久しぶりに行くと彼女の方から話しかけてきた。

寂しかった俺はすぐに彼女と恋に落ちた。
学校なんてどうでもよかったはずの俺が週に4日も出席する様になり
店には学校に行くから夜から出勤させてもらってそれまでの時間はずっと一緒にいた。
店が休みの時には彼女の家に泊まりに行った。
彼女のお母さんは朗らかな人で食事を作ってくれただけでなく洗濯もしてくれた。
一度パンツをはぎ取られそうになったことがある。
小学生の妹もいて、よくなついた。
親父さんは無口な人で、でも優しい目で俺と彼女を見守ってくれていた。
学生らしくしなさい、勉強しなさい、不純異性交遊してはいけませんなんて一言も言われなかった。

無題

2007-09-13

例えば自分の友達に子供ができたとする。
普通にかわいがるだろうし
家に遊びに行くときの土産も一升瓶からケーキなんかに変わる。
そこそこ大きくなればお年玉なんかも用意したりするだろう。
すると、家人の対応は冷たくなるはずも無く、
いつ行っても温かく迎えられる。

これって処世術?

答えは無い。
YESでもなければNOでもなく、ケースバイケースだからだ。

じゃあ、俺が○○○○○するのは?
じゃあ、俺が○○○○○するのは?
じゃあ、俺が○○○○○するのは?
じゃあ、俺が○○○○○するのは?
じゃあ、俺が○○○○○するのは?
じゃあ、俺が○○○○○するのは?

答えなんかないのに求めてしまう…

じゃあ、君が○○○○○するのは?
じゃあ、君が○○○○○するのは?
じゃあ、君が○○○○○するのは?
じゃあ、君が○○○○○するのは?
じゃあ、君が○○○○○するのは?
じゃあ、君が○○○○○するのは?

ねぇ、僕らに必要なのは答えなんかじゃなくて
時間でもなくて
お金でもなくて
互いをいたわる気持ちなんだよ。

無題

2007-09-06

冬の夜は忘れてしまった母の面影にくるまって
太陽がくるのを待っていた

目をつぶっていても眠れないのは
空腹のせいだけじゃない

差し出された手を払いのけたのは
疲労のせいだけじゃない

哀しみを通り越して無表情になってしまった瞳は
硝子玉のように透き通り
遠くに映るものだけを記憶する

目の前にある全てのものはただの玩具
満たされる事など無い

冬の夜は忘れてしまった母の面影にくるまって
太陽がくるのを待っていた

clips

2007-09-03

雑念を払うように働く
シャワーを浴びて汗を流し
クールダウンする間もなく眠りに落ちる
朝、不機嫌なアラームに叩き起こされるまでの時間は一瞬だ

だが調理場にこびりついた脂のような汗が額を覆い
うなされ自分の声に起こされる事は無くなった

余計なことを考える時間が減った分気持ちが楽になる
頭が楽になった分身体が辛くなる
働いた分収入が増える
金が入っても時間が無くなる

何かを得れば何かを失う

君さえ失わなければそれでいい

誰も強くなんかない

2007-08-10

毎日仕事や家事に追われて
ほっと一息つける場所が誰にも必要で
そのオアシスのような場所を
見ず知らずの誰かに荒らされたら
そりゃたまったもんじゃないだろう

心ない中傷
終わりのない言いがかり
神経を逆撫でする揚げ足取り

少なくとも相手が特定できれば
打つ手はいくらでもあるだろうが
誰が誰だかわからない

自分の一言が
予測不能な波紋を広げてしまう
そんな恐怖感が日に日に増幅してしまう

一日を安らかに終える事のできない苦悩

でも、そんなネット社会にだって
ほっとできる場所なんていくらでもあるんだよ
誰かにとって「此所」はそんな場所なのかもしれないし
また、そうなって欲しいと思っている

生きるっていうと大げさだけど
日常を暮らしていくって本当に大変だよね

馬鹿じゃねーの?って言いたい気持ちを抑えて笑顔作ったり
周りが遊んでいても自分の仕事はこなさなきゃなんないし

そんな事を毎日のようにやっている体力や気力があるのだから
どこの誰が言った戯れ言なんて屁でもねーよ!
…って言える強さを持っているはずなんだよ

もしそんな体力や気力がない時は
誰に言われるまでもなくベッドに潜り込めばいいんだよ

疲れた時には 帰っておいで
都会で溺れた やさしい鴎
ため息は 終着駅の
改札口で預けておいで
悲しみはいつか 紫陽花の様に
おだやかに色を 変えてゆくはず
西風に乗せて 歌ってごらん
この街の黄昏は とてもやさしい
Nagasaki City Serenade おやすみ僕の
Nagasaki City Serenade やさしい鴎

長崎小夜曲/さだまさし