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2006-08-17真っ暗な部屋の中で僕はぼーっとしていた
本当に静かな夜だった
不意に携帯電話が鳴った
友人のTからだ
彼が普段かけてくるには遅すぎる時間だった
「朝早くに父が亡くなった。」
彼の声は少し疲れていた
彼の父が入院したと聞いてからまだ一週間も経っていなかったはずだ
短い会話の後
僕は二人の共通の友人でもあるKに連絡を取りTの父が亡くなったことを告げた
Kも3年前に父親を亡くしていた
僕等はこれから出向くには不謹慎な時間帯だと言うことは十分に解っていたのだが
Tに顔を見せるべきだと言うことで一致し
焼香をあげに行くことにした
通夜はTの自宅で行われていて
彼の親類の人たちが言葉少なに座っていた。
着の身着のままの二人を怪訝そうに見上げたが
Tが友人だと言うことを告げると黙って頭を下げた
「落ち着いたら連絡する。来てくれてよかった。本当にありがとう。」Tが笑った
僕等はやるせないままTの家を後にした
Kが「家で飲んでくか?」と酒を飲む仕草をした
明日の仕事のことが一瞬頭をよぎったが
このまま帰ってもなんだか眠れない気がしてKの誘いに応じた
結局僕等は痛飲した
気がついたときには夜中の3時を過ぎていた
Kの奥さんが湿った空気を変えようと色々気を使ってくれたのだけれど
かえって僕にはそれが辛かった
TやKの痛みが僕を突き刺す
僕の両親は健在だと言うことが
唯一の救いではあるけれど
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2006-08-14途切れがちの会話を君はどう思っているんだろう。
何かを伝えたいはずなのにその何かが思い浮かばなかったり、
何かを聞きたかったはずなのに口ごもってしまう。
ぼんやりと描いた君の輪郭をなぞってみる。
空を切る腕にその感覚はないはずなのに柔らかな温度を感じる。
あどけない声で
素直な胸で
いたずらな笑い声で
鈍っていたものが増幅していくようだ。
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2006-08-09人は罪を犯しながらでないと
生きていけないものなのでしょうか
もし罪を犯すことが必然ならば
せめて日々を祈りに捧げたい
罰ならもう十分に受けたはずです
私は穏やかに祈りの日々を送りたいのです
誰とも交わることなく
心の歌だけをたよりにして
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2006-07-25日曜日の朝僕は大抵10時頃に目が覚める
だけどすぐには起きず昼前ぐらいまでは
シーツにくるまったままボーッとしている
予定のない時はいつもそんな感じだ
2階のキッチンでは親父が朝からビールを飲んでる
人付き合いが下手な彼は誰と接することもなく
アルコールを摂取することに一日を費やす
いつの頃からか親父は小言しか言わなくなった
彼の仕事が時代の流れから外れ
職人気質がいつまでも通用しなかったり
世間との折り合いがつかなかったりで
彼の背中は日を追うごとに年老いてゆく
仕方のないことなのかもしれないが
そんな彼を見ているのは僕には苦痛でしかない
彼となるだけ口を利かないようにしているのは
そういうことだ
TVだけが彼の前で饒舌だった
けれど僕にしたって日々何らかの
危機感を感じながら生きていても
その日その日の疲労を紛らわすことで精一杯
君のために何かしてあげようとする気持ちさえ
何処か遠のいてしまう
あの頃よりも笑わなくなった君もまた
疲れているのだろう
代わり映えのしないFMのカウントダウンが
神経を逆なでする
ダレカ コノオモタイセナカヲ ケズッテクレ
とりあえず携帯電話の電源を切ったままにして
どこか出かけよう
このままじゃ潰れてしまう
僕は溜息を飲み込んで
車に乗り込んだ
石を蹴るようにアクセルを踏んだ
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2006-07-25車で真夜中の高速道路をどんなに飛ばしても
君の家から僕の部屋まで3時間はかかってしまう
でも君と会っているとそんなことは忘れていて
君を送り届けた途端に溜息と共に思い出してしまう
僕の車にはAMラジオしかついてなくて
君はそんな僕を察してか
別れ際にウオークマンを貸してくれた
「これで少しは退屈も紛れるだろうから安全運転して帰ってね」
それから6回目のオートリバースを繰り返した頃に
僕はやっと眠りにつくことができた
幸せを確認するのには
あまりにハードかもしれないけど
今の僕に必要なのは
やっぱり君と一緒に過ごすことなんだと思う
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2006-07-25夜中に目を覚ますとTVがつけっ放しになっていて
無機的な音声が部屋を支配していた
何の情報も持たない電波が踊るモニター
鈍い光が僕をモノクロームにしている
無秩序の中の規則性にぼんやりと目を奪われている
明日に裏切られた今日に
僕は舌打ちした
無題
2006-07-25君の流した涙の熱さを知らずに
遠くへ行ってしまった
君が叫んだ多くの言葉も聞かずに
遠くへ行ってしまった
君が声を詰まらせた数え切れない思いを受け止めずに
遠くへ行ってしまった
君が差し出した小さな手さえ振り払って
遠くへ行ってしまった
でもそれは君が無力だったからなんかじゃない
涙の熱さも
多くの言葉も
数え切れない思いも
温かな手も
みんなわかっていてもどうしようもなかったんだろう
黙って行ってしまったのは
自分で自分を止められなかったからなんだろう
ありがとうもごめんなさいも
言えないぐらい
君の流した涙の熱さを知らずに
遠くへ行ってしまった
君が叫んだ多くの言葉も聞かずに
遠くへ行ってしまった
君が声を詰まらせた数え切れない思いを受け止めずに
遠くへ行ってしまった
君が差し出した小さな手さえ振り払って
遠くへ行ってしまった
でもそれは君が無力だったからなんかじゃない
涙の熱さも
多くの言葉も
数え切れない思いも
温かな手も
みんなわかっていてもどうしようもなかったんだろう
無題
2006-07-19どんなにつらいことや
どんなにかなしいことがおこっても
じぶんをころすことだけはしないで
それがきみのさいごのけつだんではないはずだから
あしたになれば
またちがったこたえがみつかるんだよ
あさってになれば
またちがったおもいがうまれるんだよ